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大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)30号 判決 1961年11月22日

判  決

泉佐野市二九四三番地の二

控訴人

角谷製綱有限会社

右代表者取締役

角谷五郎蔵

右訴訟代理人弁護士

宮浦要

大阪市北区若松町一九番地

被控訴人

伊東修

主文

本件控訴を棄却する。(ただし、原判決主文第一項は、請求減縮により、「控訴人は被控訴人に対し金三一一、四一〇円及びこれに対する昭和三四年五月二二日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。」と変更されている。)

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文第一項同旨の判決(主文第一項ただし書のとおり請求の趣旨を減縮)を求めた。

当事者双方の主張(中略)は、以下に訂正補充する外、原判決事実記載と同一であるから、ここにこれを引用する。

被控訴人は、

「被控訴人は、現に、控訴人の提出した左記約束手形一通(本件手形)の所持人である。

金  額 三一一、四一〇円

支払期日 昭和三四年四月二三日

支払地 泉佐野市

支払場所 株式会社大和銀行佐野支店

振出地 泉佐野市

振出日 昭和三四年一月一五日

振出人 大阪府泉佐野市二九四三角谷製綱有限会社

代表取締役 角谷五郎蔵

受取人 角谷製綱出張所

第一裏書(白地式)裏書人、大阪市西区立売堀南通三丁目九番地

角谷製綱出張所 岡田 安弘

第二裏書裏書人、高橋 峯雄

第二裏書被裏書人欄、当初の記載は判明しないが、インク消で当初の記載を抹消した上に二本の縦の抹消線が引いてある。

第三裏書(白地式)裏書人、伊東修(被控訴人)

よつて、被控訴人は控訴人に対し本件手形金三一一、四一〇円及びこれに対する支払命令送達の日の翌日である昭和三四年五月二二日から支払済まで年六分の割合の遅延損害金の支払を求める。」

と求べ、

控訴人は、

「高橋峯雄より被控訴人への本件手形譲渡行為は、訴訟行為を為さしめることを主たる目的として為されたものであり、信託法第一一条違反により、無効である。」

と述べ、

証拠(省略)

理由

(証拠)によれば、被控訴人が、現に、控訴人の振出した左記約束手形一通を、所持する事実を認め得る

金  額 三一一、四一〇円

支払期日 昭和三四年四月二三日

支払地 泉佐野市

支払場所 株式会社大和銀行佐野支店

振出地 泉佐野市

振出日 昭和三四年一月一五日

振出人 大阪府泉佐野市二九四三角谷製綱有限会社

代表取締役 角谷五郎蔵

受取人 角谷製綱出張所

第一裏書(白地式)裏書人、大阪市西区立売堀南通三丁目九番地

角谷綱出張所 岡田 安弘

第二裏書裏書人、高橋 峯雄

第二裏書裏書人欄、当初の記載は判明しないが、インク消で当初の記載を抹消した上に、二本の縦の抹消線が引いてある。

第三裏書(白地式)裏書人、伊東 修(被控訴人)

まず、本件手形の受取人「角谷製綱出張所」と第一裏書の裏書人「角谷製綱出張所岡田安弘」との間には裏書の連続が認められる。

つぎに、手形の記名式裏書の被裏書人の記載だけが抹消されているとき、当該裏書は白地式裏書としての効力があるものと認めるのを相当とする(右抹消が無権限者によつてなされた事実が立証されても、当該裏書の白地式裏書としての資格授与的効力を否定することはできず、形式的資格ある所持人の実質的権利を否定するためには、所持人が悪意又は重大な過失により手形を取得したとの手形法第一六条第二項但書の要件を、手形債務者において主張立証しなければならない。)よつて、本件手形の第二裏書は白地式裏書としての効力があるものと認められる。

手形の最後の裏書まで裏書の連続があり、最後の裏書が白地式裏書である場合、白地式で最後の裏書をした裏書人が現に右手形を所持するとき、右裏書人は右手形の適法の所持人であると解するのを相当とする。

したがつて、現に本件手形を所持している被控訴人は本件手形の適法の所持人であると認められる。

よつて、控訴人主張の抗弁について判断する。

(イ)(証拠)によれば、控訴会社代表者角谷五郎蔵は受取人欄白地の本件手形を岡田恭夫に交付して本件手形を振出したこと、本件手形振出当時、岡田恭夫は通名岡田安弘と称するとともに、角谷製綱出張所なる商号を使用し独立して控訴会社の商品購入の代行をしたり、外部との事務連絡に当つていたことを認め得る。

よつて、振出人と受取人とが同一人であるとの抗弁は、前提事実も欠如し、排斥を免れない。

(ロ)  控訴人の第一裏書無効の抗弁は、第一裏書が控訴会社の裏書であることを前提としてなされているのであるが、そうでないことは前記の通りであるのみならず、被控訴人が悪意又は重大な過失により本件手形を取得したという手形法第一六条第二項但書の要件を、控訴人において主張立証しない限り、被控訴人の本件手形金請求を排斥することはできないから、右の要件の主張立証のない本件においては、第一裏書の実質的効力のみを判定しても無意味である。

よつて、第一裏書無効の抗弁は採用できない。

(ハ)(証拠)によれば、被控訴人は、高橋峯雄より、本件手形は綱材代金支払のため交付を受けたもので、期日には確実に落ちるから割つてくれと依頼され、その言を信用して、本件手形を割引取得した事実が認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

よつて、控訴人主張の悪意の抗弁は採用できない。

(ニ)  被控訴人が本件手形を取得したいきさつは前記の通りであるから控訴人主張の信託法第一一条違反の抗弁の採用できないのは自明である。

よつて、被控訴人に対する本件手形金三一一、四一〇円及びこれに対する支払命令送達の翌日であること記録上明かな昭和三四年五月二二日から支払済まで年六分の割合の遅延損害金の支払を求める本訴請求はこれを認容すべく、本件控訴を棄却し(ただし、原判決主文第一項は、請求減縮により、主文第一項ただし書のとおり変更されている)、民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第八民事部

裁判長裁判官 石 井 末 一

裁判官 小 西  勝

裁判官 岩 本 正 彦

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